苦い文学

日本はロシアに人を送れ

欧米によるウクライナへの軍事支援が増加の一途をたどっている。

最大の支援国はアメリカだ。何億ドルもの資金に加え、戦車、装甲車、地対空ミサイルシステム「パトリオット」、高機動ロケット砲システム「ハイマース」などをウクライナに送ってきた。

また、最近、アメリカはクラスター弾を供与したが、これはウクライナ支援国の間でも賛否が分かれている。

アメリカほどではないが、フランス、ドイツ、イギリスもウクライナへ積極的な軍事支援を続けている。

いっぽう日本はといえば、現行法では、日本から武器の無償供与はできない。しかし、日本も欧米並みに軍事支援すべきだという考えも根強い。

私は日本はウクライナに軍事支援をすべきではないという立場だ。そんなことのためにわざわざ法律を変えるには及ばないし、もっと簡単な方法があるからだ。ただロシアに人を送るだけでいいのだ。これが、逆にウクライナ軍を利することになる。

誰を送るかというと、もちろん「ビッグモーター」の人々だ。

ゴルフボールさえ渡すのを忘れなければ、ロシアじゅうの戦車も軍用車も戦闘機もあっという間に台無しにしてくれることだろう。

苦い文学

炎上

成熟した女性がもっとも憎むものはなんだろうか。

不正、性差別、理不尽な思い、無責任な組織、卑怯な男……これらは成熟し、まともな分別のある女性が等しく憎むところだ。だが、それらは最上位ではない。私の見るところ、女性が憎むものベストワンは日光だ。

でなければ、どうしてあのような忍者みたいな格好をするのだろうか。カラスのくちばしのようなサンバイザーで顔を覆うのだろうか。顔を布でぐるぐる巻きにした上に、カマキリのようなサングラスをかけるのだろうか。まるで日光を浴びたらたちまち灰になってしまうかのようではないか。

これはみな、女性が日光を憎むことはなはだしきによるのである。

だが、私はこうした女性たちを揶揄しているのではない。むしろ、激しい憤りを感じているのだ。

考えてもみてほしい。男は裸で歩いて平気だというのに、女性はそうではないのだ。これこそ太陽によるあからさまな性差別ではないだろうか。

ゆがんだ性差別行動をくりかえす太陽は、いちど炎上して痛い目にあったほうがいいと思っているのは私だけではないはずだ。

苦い文学

表と裏

表だか裏だかわからないという話をさせてほしい。

非常に孤独な男がいた。だれひとり寄りつくこともなく、何年もひとりぼっちで過ごしてきたのだ。おそらく性格もあるのだろう。

あまりにひとりぼっちだったので、彼のところに若い男女が入れ替わり立ち替わりやってきて、体を激しくまさぐりあうようになったほどだ。ひと気のない場所だと思われたのだ。

その程度ならまだしも、やがて不審な人々もやってくるようになった。ひと気のない場所は、悪事を働くにもうってつけだったのだ。

犯罪者たちは、彼の目の前でありとあらゆる凶行を繰り広げた。その恐ろしさもさることながら、自分が孤独なせいでこんなむごたらしい犯罪が行われているかと思うと、彼は道義的責任も感じずにはいられなかった。

そこで、彼は一計を案じた。彫り師に頼んで、背中に大きくこう彫ってもらったのだ。

「警察官立寄所」

これではさしもの悪人たちも逃げ出さざるをえなかった。ようやく平穏な生活をとりもどした彼であるが、それでもたまに ATM だと間違えてやってくる人はいる。

それはさておき、背中に「警察官立寄所」の刺青がある人がいるとしたら、その人は、裏の人間だろうか。それとも表の人間だろうか。

表だか裏だか、どっちだか……

苦い文学

ハリッサの謎

最近、スーパーや輸入食料品店に行くと「ハリッサ」という赤い辛味調味料を見かけることが多くなった。パッケージを見ると「地中海生まれの調味料」とか書いてある。

より正確に言えば、「ハリッサ」とは、地中海に面した北アフリカの国、チュニジアの名産品だ。これはこの国を代表する食品のひとつで、日本の味噌・醤油、韓国のコチュジャンのような地位を占めている。

「ハリッサ」は乾燥させた唐辛子にクミンやコリアンダー、塩などを加えて作るそうだ。チュニジアではスーパーなどで買うこともできるが、本来はそれぞれの家で作るもののようだ。

いろいろな料理に入れるが、そのまま「ハリッサ」とオリーブオイルにパンをつけて食べてもいい。

さて実のところ「ハリッサ」というのは少しおかしな名称だ。チュニジアのアラビア語では「ハリーサ(hriisa)」だ。どうしてハリーサが「ハリッサ」になったかというと、これはフランス経由でこの調味料が日本にもたらされたことによる。

フランスにはたくさんのチュニジア人が住んでおり、チュニジアの料理も普及している。「ハリーサ」もフランス語化して「harissa」と綴る。これを日本語のローマ字読みで「ハリッサ」と読んだのである。

しかしフランス語の「ss」は日本語の「ッ」とは関係ない。フランス語の綴りのルールでは、語中の「s」ひとつのときは、濁音(つまりザ行)、「ss」のときは清音(つまりサ行)で読む決まりだ。例えば「chaise」は「シェーズ(椅子)」、「chasse」は「シャス(狩り)」だ。だから「ハリッサ」の小さい「ッ」は不要なのだ。

しかも、「harissa」はフランス語として発音すると「アリサ」となる。これはフランス語では「h」を発音しないためだ。それで、この「ハリッサ」が日本に入ってきた当初はフランス語風に「アリッサ」という名で売られていたこともあった。

要するに、「ハリッサ」というのはアラビア語的でも、フランス語的でもない、いわば日本風の呼称だ。これはこれで、文化の伝播のひとつのありかただといえるだろう。

また、チュニジアからフランスを経て日本に来るまでの間に、小さい「ッ」が混入したことについて、食の安全、品質、風味の観点から懸念する人もいるかもしれない。だが、まったく問題がないのはもちろんである。

苦い文学

幸福の方程式

世の中には幸福な人もいれば不幸な人もいる。だが私は、この世から不幸というものが一掃され、世界中のすべての人々が幸福になるべきだと思う。

私は、世界中の人々を幸福にするための研究に打ち込み、ついにそのヒントを発見した。次の数式が幸福の鍵だったのだ。

      X-Y=Z

この数式が表しているのは、Z が 1 以上のときは、必ず世界に不幸な人が存在するということだ。それゆえ、私たちは、Z が 0 以下になるように努力しなくてはならない。

私はこの数式を「幸福の方程式」と呼びたい。なぜなら、ここにはじめて、すべての人間が、だれひとり取り残されることはなく、幸福になりうる、という可能性が数学的に示されたのだから。アインシュタインのあの有名な方程式に匹敵する意義を持つといっても過言ではあるまい。

なお、この数式で、X は「捨てる神の捨てる行為の総数」を、Y は「拾う神の拾う行為の総数」を表している。

万人を幸福のために、この方程式を役立てていただければ、私にとってこれに勝る幸福はない。

苦い文学

「間違いない」ができるまで

「私がやりました」と彼は罪を認めた。だが、警察はそれでは満足しないようなのだった。

取調官は机をドンと叩いた。「それじゃダメなんだよ! ちゃんと言え!」

彼は怯えながら答えた。「だから、私がやりました。すみません」

「口答えするな! そんなんで済むと思うなよ!」と取調官はさらに机を叩いた。すると、背後にいた別の取調官が制止した。「まあ、そうムキになるな」

「ですが、先輩……」

「俺に任せろ」とその取調官は彼のほうを向いた。「お前は自分の罪を認めてるようだな」

「はい。罪を償うつもりです」

「きいたふうな口を聞くんじゃんねえ。ことの次第によっては、その罪の償いってのも怪しくなるぜ」

「ですが、私はやったと認めているのです」

「うーん、やった、やらないんじゃないんだ。残念ながら。ほら、あの言い方があるだろう。知らないか、テストで答えが正解じゃない、不正解だ、これをなんというかい」

「バツですか」

「ちがう!」

「……間違い」

「その通り。そいつを使って『やった』ってことを言ってほしいのさ」

「え?」

「つまりだ、こう言うじゃないか。ナニナニしたのは……」

「あっ、間違いない。そうです、間違いないです」

「そうだ!」 取調官は同僚のほうを向いて怒鳴った。「なにをボヤボヤしてんだ。調書、調書だ、早く!」

……そして、翌日、新聞にこんな記事が載った。

〈都内の飲食店で料金を払わずに逃走したとして50代の無職の男が逮捕された。容疑者は警察の調べに対し「食い逃げしたのは間違いない」と容疑を認めている。〉

苦い文学

サブスク詐欺

SNS で有名人の名を騙り、虚偽の投資話を持ちかけて現金 100 万円をだまし取ったとして 15 日、詐欺の疑いで池袋の自称ミュージシャン、山本足朗(たすろう)容疑者(23歳)が逮捕されました。

警察によりますと山本容疑者は今月、都内の 70 代男性に対し SNS のダイレクトメッセージで、シンガー・ソング・ライターの山下達郎さんを名乗り「世界中のシティ・ポップのブームに合わせて、近々サブスクリプション・サービスで自分の曲の配信を始める予定です。配信解禁前に出資してくれれば、印税の1%をお渡しします」などと嘘の投資話を持ちかけました。

男性は現金 100 万円を振り込みましたが、その後、予定された配信解禁日になっても、山下達郎さんの曲が配信されなかったため、警察に被害届を出しました。

被害にあった男性は「待てど暮らせど曲が配信されないため、がっかりしてサブスクにある竹内まりやさんの「元気を出して」を聞く毎日でしたので、犯人が逮捕されてホッとしております」と語りました。

警察の取り調べに対し、山本容疑者は「私の逮捕は不要でしょう」などと語り、容疑を否認しています。

苦い文学

唾

仕事がないので、サイトに登録して、試験監督のバイトをした。なんの試験だかは言えないが、検定や資格試験のようなものだ。

当日、会場に行き、本部となった一室で試験の流れについて打ち合わせを済ませる。腕章をつけ、問題用紙やマークシートを抱えて担当の教室に行く。同じ教室の担当は他に2人いた。

2人は私よりずっと若い。あまりやる気のなさそうな感じだ。それで結局私がなんでもすることになった。教卓の上に用紙をきちんと並べたり、忘れた人用の筆記用具を確認したり、教室の時計が合っているか確認したり、黒板に注意事項を書いたり……。若い2人は私があまりにもテキパキしているので、驚いているようだった。

準備をしている間に受験者が集まり、試験開始時間も近づいてきた。まずマークシートを配る。

私はマークシートを抱え、もう片方の手の指に唾をたっぷりつけた。できるだけスムーズに配るにはこうしたほうがいい。すると、若いのが駆け寄ってきて「配らせてください!」と私からマークシートを取った。

マークシートを配り終えると、次は問題用紙だ。私は問題用紙を持ち上げ、指をしっかり舐めた。すると別の若いのが慌ててやってきて「代わりにやらせてください!」と問題用紙を奪い、どんどん配り始めた。

さて、試験が始まり、無事に終わった。問題用紙とマークシートの回収・確認も済み、あとは教卓を教室に隅に移動するだけだ。

私はひとり教卓の前に立ち、最後の一仕事だと、両手にぺっぺっと唾を吐いて、揉み手をした。

すると、すぐに若い2人が飛んでくるではないか。「代わります! 代わります!」といいながら教卓を掴んで移動させてしまった。

短い間であったが、若者2人はどうやら私にずいぶん感化されたようだ。私たちは本部に戻り、残りの作業を終え、解散となった。

別れぎわに前途ある2人を激励しようと、私は握手の手を差し出したが、恥ずかしかったのか早足で行ってしまった。

苦い文学

自殺をなくそう

ネットの誹謗中傷が引き起こす自殺を、ひとつでもなくすために私たちに何ができるだろうか。

「誹謗中傷をなくせばいいのだ」という人もいる。だが、これはふたつの点で難しい。まず、誹謗中傷とそれ以外の発言(批判・非難など)の区別をつけるのはそう簡単ではない。これは言論の自由にもかかわる重要な問題だ。

また、自殺をする人の精神状態の問題もある。実際、追い詰められた人にとっては、肯定的な意見ですら、非常につらく響くもののようだ。「うつにがんばれは禁句」ということもしばしばいわれる。

かように難しい問題だが、私にひとつ提案をさせてほしい。それは誹謗中傷をなくすどころか、それを活用することで自殺を確実に減らす方法だ。

しかも、簡単でお金もほとんどかからない。何をするかというと、SNS のあらゆる投稿の後にデフォルトで次の文言が入るようにするだけなのだ。

<相談窓口>
【いのちのテレフォン】
・フリーダイヤル 0120-XXX-XXX
・ナビダイヤル 0570-XXX-XXX

考えてほしい。特定の相手に「死ね」を繰り返した投稿の末尾に、これがあったとしたら。毒を飲ませた後に、すぐに解毒剤を渡すとしたら、それはむしろ善をなしたということではないだろうか。

ぜひ、日本政府にはこの案を採用していただき、私たちの国がいつまでも卑劣な誹謗中傷に溢れる国であるようにしてほしい。

<相談窓口>
【いのちのテレフォン】
・フリーダイヤル 0120-XXX-XXX
・ナビダイヤル 0570-XXX-XXX

苦い文学

最初の男

ビルマの北部にカチン州というカチン民族が多く住む州がある。カチン州では昔からビルマ国軍とカチン人との間に戦争があって、停戦期間を挟みながら現在まで続いている。そのため、カチン州の農村はいま非常に悲惨な状況なのだという。

先月、私の友人の在日カチン人の男性がカチン州を訪問した。私は彼と会う用があり、喫茶店でその時の話を聞く機会を得た。彼は私より10以上年上で、健康状態も良くはないが、自分の民族のためにできることをしているのだった。

カチン州の州都はミッチーナーといい、ビルマの最大都市、ヤンゴンとは 1000 キロほど離れている。

私の友人によれば、ヤンゴンからこのミッチーナーに行くには3つの方法があるそうだ。鉄路、道路、空路だ。鉄路が一番安いが、2021 年 2 月の軍のクーデター以来封鎖されている。

次は道路、つまりバスだ。朝ヤンゴンを出て、翌日の朝に着くのだという。料金も安いが、いまバスで行くのは危険だという。ミッチーナーへの長い道のりでは、いくつもジャングルを通らなければならない。するとそこにはビルマ国軍の兵士たちがいる。兵士たちはバスを止め、金品を要求するのだそうだ。拒否なんかできない。銃を持っているからだ。

ビルマ軍をやり過ごしたとしてもまだ安心はできない。別のジャングルに入ると、今度はビルマ軍と敵対している武装組織が潜んでいる。もちろん銃をもっているから、ここでも金品を奪われる。

そして別のジャングルには、また別の武装組織が潜伏している。金品を差し出すのはもちろんだ。ヘマをして機嫌を損ねでもしたら大変だ。食べ物も飲み物もないジャングルの中で、丸一日、足止めを喰らう可能性だってある。

結局いちばん安全なのは飛行機ということになる。料金が今や何倍にもなっているが、これしかないし、私の友人もそうせざるをえなかったという。

ところで、タイトルの「最初の男」というのは、彼がハンディファンを持っていたからだ。

かねてから、おじさんは絶対にハンディファンを使わない、と主張してきた私であるが、例外との最初の出会いにもう笑いが止まらない。