歴史家は、帯方郡からやってきたという男の話を聞いていた。
「その邪馬台国の先には何があるのかね」
「は」と男は始めた。「邪馬台国から東に水行二十日、さらに陸を東に百里進みまして、聳え立つ山に分け入りますと、志尼台国(しにたいこく)に至ります。
「その名の通り、みな死にたい死にたい、といっている国でございます。しばしば電車に飛び込んでこれを停止させますので、移動もままなりません。また高楼より飛び降りて通行人を害すことも頻繁なため、外出も危険です。この国に関してはこれ以上私は知りません」
歴史家は男の話をメモし、尋ねた。「では、その国の先には何があるのかも知っているかね」
「ええ、この志尼台国の先には今度は伊鬼台国(いきたいこく)があります。この国では、生きたい生きたい、と誰もが口にしております。あまりにも生きたい気持ちが強過ぎて、悶絶して息絶えることもあるそうです」
「聞き漏らしたのかもしれないが、志尼台国から伊鬼台国までの道のりを教えてくれないか」
「志尼台国から東に水行すること十日、陸路を南に百里、さらに西の海を十日間進み、そこから陸地を北に百里ほどでございます」
「もしかしたら、志尼台国と伊鬼台国は同じ国なのではあるまいかな」
「いや、そうですか……その先の禰無台国(ねむたいこく)と悪記台国(おきたいこく)の報告もいかがでしょうか……」
歴史家は手のひらを振って男を追い払い、その日のメモを消去した。