苦い文学

誰ひとり取り残さない

世界と人類がよりよく存続するために、2015 年、国連総会で採択されたのが「持続可能な開発目標」、略称でSDGsと呼ばれる 17 の目標だ。私はこの目標のどれも素晴らしいと思っている。

だが、素晴らしいのはそればかりではない。これらの目標の実現にさいして、「誰ひとり取り残さない」ことが重視されているのだ。つまり、この目標は一部の特別な人のためではない、そう、私のためでもあるのだ。

私はこの SDGs のことを聞いてからというもの、国連からの連絡を心待ちにするようになった。もちろん、私にもわかっている。世界にはたくさんの人がいるから、いくら誰一人取り残さないと言っても、順番というものがある。いきなり全員など無理なのだ。

「今ごろ、国連はどこの国の人に連絡をしているだろうか。日本は有名で素晴らしい国だからきっと最初のほうに連絡をするに違いない」

「しかし、日本だってたくさん人がいるのだから、一人一人連絡するのは大変だぞ……きっと一斉メールで通知が来るのだろう」 だが、待てど暮らせど連絡がない。私はだんだん不安になってきた。

「もしかしたら、私のことを忘れたのでは? ミスかなにかで! あれほど、誰ひとり取り残さない、と言っていたくせに!」

明日の朝、私は始発に乗って、東京の国連の事務所に行くつもりだ。もしかしたら、自分だけ取り残されたのではないか、と思うと、もう居ても立ってもいられないのだ。