苦い文学

おぼこい

私が「未通女(おぼこ)」という言葉を知ったのは中学生ごろなにかの小説で読んでだと思う。そのとき私が理解したのは「処女の、性体験のない娘」という意味だった。

それから後、大学に入り、先輩が後輩の女の子に真面目な問題について助言しているときに「あなたみたいなおぼこい人」とか言っているのを聞いて、私は衝撃を受けた。若い女の子に性経験の有無についてこんなあけすけに言うとは!? しかし、先輩の態度はいたって普通なのだった。

その後、私はさまざまな経験を積み、「おぼこい」というのはどうやら西の言葉で、性的な含みなしに「子どもっぽい、世慣れていない」という意味で使われているということがわかってきた。思えば、あのとき会話していた学生は2人とも西の人だった。

しかし、関東では「おぼこい」はあまり聞かない。同じことを言うなら「すれてない」が普通だと思う(「うぶな」もあるが、古臭い印象だ)。さらに、そのもととなった「おぼこ」も日常的な語彙ではない。だから、関東には、私がそうだったように、もっぱら性的な言葉と捉えている人も多いかもしれない。少なくとも「おぼこい」は、私は今も人前では使えないし、使わない。私はどうやら「おぼこい」の「おぼこ」なのだ。

近年は、セクハラの被害をできるだけなくそうという意識が広まっている。なので、西の人がなにげなく発した「おぼこい」が、不愉快なセクハラだと東の人に受け取られる可能性もないわけではない。もはや、私のような「おぼこい」若者を当惑させる程度で済んだ時代ではないということだろう。