苦い文学

駅の階段での祈願

駅のホームから改札口に上がる階段は、上り優先部と下り優先部とに手すりで分けられていて、たいていは下りのほうが幅狭になっている。

私たちの乗った電車がホームに止まる。私たちはどっと降り、改札口に上がろうとする。しかし、降りた人が多すぎて、一度に階段に入りきらず、階段の前で列ができる。列はノロノロとしか進まないが、私たちはじっと耐えている。

ところが、私たちのノロい列のとなりで、階段をすいすい上がっていく人々がいる。あろうことか下り優先部を駆けあがっているのだ。

列に並ぶ私たちはじっと堪えながら、これらの無法者が次々と追い抜いていくのを見上げる。憎しみをむき出しにしながらこう呟く。

「なんで駅員たちはこうした連中を取り締まらないのか!」
「奴らにとってルールなどなんの意味もないのだ」
「生来の犯罪者だ!」

そして、駅とホームの神々に祈願する。「どうか降りる人を出現させて、これらの不届き者を懲らしめてください!」 だが、いつまで待ってもだれ一人降りてこない。その間にも、犯罪者どもはどんどん上にいってしまう。私たちがまだ階段の一段目にもたどり着いていないというのに!

私たちはついにこう考え出す。

「あいつらのようにしたってなにが悪い? 駅員どもも何も言わないじゃないか」
「そうだ。こんなところでくすぶっているくらいならば、俺たちだって!」

私たちは意を決して、もはや一歩も進まなくなった上りの列を離脱する。そして、下り優先部の下部に立つや、一気に駈けあがる。

だが、そのとき、突如として降りる人々が出現し、蹴散らされた私たちはホームの下に転落する。