苦い文学

キックバック

日本の憲政史上の最重要シーンをひとつ挙げろといわれれば、2023 年 12 月 11 日正午に挙行されたルーフトップ・パフォーマンスに指を屈する。

自民党の大物政治家たちが、日本の政治の中枢、永田町1丁目1番地にそびえる自民党本部の屋上で、突如として演奏を始めたのだ。

このルーフトップ・パフォーマンスのポリティシャンは次のとおりだ。

松野博一官房長官(リズムギター&ボーカル)
世耕弘成参議院幹事長(ベース&ボーカル)
西村康稔経済産業大臣(リードギター&コーラス)
萩生田光一政務調査会長(ドラム)
高木毅国会対策委員長(キーボード)

これらのポリティシャンが、慎重かつ適切に楽器を鳴らすと、自民党本部周辺の周囲は騒然となり、たちまち人だかりができた。騒音の苦情に警察も続々と駆けつける事態となった。

これだけの騒ぎにあっても、どのポリティシャンも与えられた職責をまっとうしたプレイを聞かせたのはさすがの一言に尽きる。

この歴史的パフォーマンスの曲目を次に記し、短い解説を付す。

「キックバック」(軽快なビートで「キックバック」を求めるノベルティソング)
「キャント・バイ・ミー・票」(お金で票は買えないよ、というメッセージソング)
「パーティー券はそのままに」(収支報告書には記載しないで、という切ない気持ちを歌った曲)
「ノー・リプライ」(答弁を差し控えさせていただきたい気持ちをシャウト)
「ドント・レット・ミー・ダウン」(事情聴取でがっかりさせないで、という胸の内を聞かせる)
「キックバック(リプライズ)」

最後のキックバックでは、パーティー券を屋上からばらまくというサプライズ演出もあり、聴衆を大いに沸かせた。

また、演奏の締めくくりに松野博一官房長官が聴衆たちに向かって語りかけた「派閥を代表し、感謝を申し上げます。有権者の審判をパスできればいいのですが」という一言も忘れがたい。

なお、このルーフトップ・パフォーマンスを最後に、派閥は解散した。