苦い文学

駅のゴミ箱

駅でゴミを捨てるのは大変だ。なにしろゴミ箱を見つけるのは至難の業。盲亀浮木、優曇華の花のごとくだ。

改札口の周辺にもない。ホームに降りる階段の周囲にもない。それでは、とホームに降りる。たぶん階段の下だ、そう思ってまず見に行くが、そこにもない。ホームを歩いて探す。結局端から端まで歩いてしまう。だが、ないのだ。

しだいに隣のホームで見かけたような気がしてくる。急いで階段を登り、別のホームに降り立つ。階段の下、エレベーターの裏、ベンチの脇、そば屋の正面……どこを探してもない。

だんだんと手に持つゴミが重くなってくる。まるで鉄の塊のようだ。手が痺れてくる。しかも、濡れていて、汚らしい。手を洗いたい、と思った瞬間、トイレを思い出す。再び階段を上がり、トイレに向かう。その周辺にはゴミ箱はない。中だ。

漏らしそうな人の足取りで駆け込むが、トイレの中にもない。

まるで駅のゴミ箱は自在に気配を消すことができるみたいだ。もう決して見つけることができないような気がしてくる。永遠にゴミ箱を探して駅をさまよい歩くとは。こんな人生ってあるのだろうか。きっとしまいには私もゴミのようになってしまうのだ。そして、ゴミ箱は自分を捨てる墓へと変わり……

だが、苦悩と絶望の底で、それは不意に姿を現す。いくどもないことを確認した場所だというのに、見ればゴミ箱があるのだ。私は歓声をあげて駆け寄る。

その瞬間だ、ゴミを手にした私の目の前に、清掃員が現れる。私がひるんだそのすきに、ゴミ袋の取り替えを始める。

私は終わるのを待っているが、清掃員は永遠に作業を続けている。ゴミは私だ。