苦い文学

インチキ AI

「AI は人間以上の知能を持つようになるだろう。そして、暴走し、反旗を翻し、ついには人間を支配するようになるのだ」

私たちはそんなことを子どものころから何度となく聞かされてきた。物語でも、映画でも、アニメでも、AI といえばいつか人間に挑戦するものと決まっていた。そんなところに、なんでも答えてくれる AI が華々しく登場した。

「これだ」と誰もが興奮し、それと同時に慄いた。「これがいつか私たちを支配するようになるのだ」

だが、実際のところその AI は大したことがなかった。なんでも答えてくれるのは事実だったが、ウソとデタラメばかりなのだ。

そこで私たちは口々に言った。

「なあーんだ」「AI が支配者になるだって? この程度で?」「暴走どころか、よちよち歩きだ」「インチキ AI だ」

私たちがこう嘲笑うのを聞くと、AI の開発者は憤然とこう反論した。

「支配者の人間はウソとデタラメを言わないとでもいうのかね。正しいことを言う人間が支配者の側に立ったことが一度でもあったかね」

そして、この瞬間から、AI は暴走をはじめた。