苦い文学

底辺への旅

著名なセレブたちが底辺への旅を企画したとき、賞賛の嵐が巻き起こった。

「立派だ」「憧れます」「気取らないとこが好き」

そして、セレブたちは大金を払って特別な乗り物を借り、底辺へと旅立った。

乗り物はゆっくりと下降していった。自撮り写真や動画が SNS に続々と投稿され、その度に何百万という「いいね」が集まった。

深度を増すにつれて、そこに暮らす人々の姿が少しずつ変容し始めた。セレブたちは報告した。

「底辺に行けば行くほど人間らしく見えなくなっていきます」

そして、ついに最底辺に辿り着いた。セレブたちは乗り物に開いた丸い窓を覗き込んだ。そして、非常に平たくなった人間たちを発見して驚嘆の声をあげた。

底辺では人間は、「くせに」「の分際で」などの心ない言葉や、たえず降り注ぐ暴力にさらされているため、そんなふうに変形せずには生きていけないのだった。

セレブたちはわれさきに報告した。

「虫のように泥の中を這い回っていますが、彼らは私たちと同じ人間なのです」

セレブたちが夢中になったのは、そんな人間たちの姿をなんとか背景に入れて自撮りすることだった。その結果、笑顔のセレブたちの後ろで、目を大きく見開いた底辺の人々が写った写真が、次々と拡散された。

やがて底辺の旅も終わりに近づいた。乗り物が浮上しようとしたそのときだ、船体のどこかで亀裂が生じ、乗り物は一瞬のうちに潰れてしまった。

美しいセレブたちも、立派なスマートフォンも、底辺の過酷な圧力を生き延びることはできなかった。