苦い文学

表と裏

表だか裏だかわからないという話をさせてほしい。

非常に孤独な男がいた。だれひとり寄りつくこともなく、何年もひとりぼっちで過ごしてきたのだ。おそらく性格もあるのだろう。

あまりにひとりぼっちだったので、彼のところに若い男女が入れ替わり立ち替わりやってきて、体を激しくまさぐりあうようになったほどだ。ひと気のない場所だと思われたのだ。

その程度ならまだしも、やがて不審な人々もやってくるようになった。ひと気のない場所は、悪事を働くにもうってつけだったのだ。

犯罪者たちは、彼の目の前でありとあらゆる凶行を繰り広げた。その恐ろしさもさることながら、自分が孤独なせいでこんなむごたらしい犯罪が行われているかと思うと、彼は道義的責任も感じずにはいられなかった。

そこで、彼は一計を案じた。彫り師に頼んで、背中に大きくこう彫ってもらったのだ。

「警察官立寄所」

これではさしもの悪人たちも逃げ出さざるをえなかった。ようやく平穏な生活をとりもどした彼であるが、それでもたまに ATM だと間違えてやってくる人はいる。

それはさておき、背中に「警察官立寄所」の刺青がある人がいるとしたら、その人は、裏の人間だろうか。それとも表の人間だろうか。

表だか裏だか、どっちだか……