苦い文学

ハンディファン

暑い日が続くので、街ゆく女の子たちはみんなハンディファンを顔にかざしている。そればかりか、男の子も持ち歩いている。

いぜん私は、おじさんは絶対にハンディファンを持たない、と主張した。もしかしたらそれは大きな間違いかもしれないと思っていたが、今日見たかぎり、ひとりのおじさんもハンディファンを持っていなかった。私は正しかったのだ。

なぜおじさんはかくもハンディファンにかたくなに抵抗するのだろうか。頭が硬くなっているので、扇風機は家にあるものという固定観念から抜け出せないのだろうか。

それとも、ジェンダー的ななにかが原因なのだろうか。つまり、おじさんがカーラーを頭につけて歩かないのと同じ理由だ。

しかし、いろいろ考えるよりも実際に調査してみたほうがいい。私は自腹でハンディファンを購入すると、街角に立った。やがて、ひとりのおじさんが向こうからやってくる。汗だくでちょうど風を欲しているようなようすだ。

私はそのおじさんを呼び止め、ハンディファンを渡し「どうぞ使ってください」と言った。

おじさんは、渡されたハンディファンを不思議そうにいろいろな角度から眺めた。そして、スイッチを入れると、なんとファンの部分を頬や顎にこすりつけはじめた。

これだ。これが原因だったのだ。

おじさん感心して「朝剃ったばかりなのにまだ剃り残しが!」なんて言ってる。