苦い文学

荒野の誘惑

イエスが荒野にひとりいると、悪魔がやってきて言った。

「もしおまえが神の子ならば、この石をパンにすることができるはずだ」 

イエスは答えた。「人はパンだけで生きるものではない、と書いてある」

それから、悪魔はイエスを高い所へ連れて行き、世界のすべてを見せて言った。

「もしも私にひざまずくのならば、世界のすべてをあげよう」

イエスは答えた。「主なる神を拝し、ただ神にのみ仕えよ、と書いてある」

それから、悪魔はイエスをエルサレムの神殿の上に連れて行き、言った。

「もしお前が神の子ならば……」

私「ちょっと、ちょっと、お前ら二人なにやってるんだ! 勝手に入ってきて! とっとと出ていけ!」

イエスと悪魔、泡食って逃げ出していった。

私はといえば、人生に絶望していたのだった。過去を振り返れば、そこにはなにもなく、ただ荒涼とした荒野が広がっていた。かといって、将来にもなにかあるわけでもなかった。むしろいっそうひどく荒れ果て、草一本生えないというありさまだった。

すると、ちょうどいい荒野があると聞きつけてイエスと悪魔がやってきて、例のくだりをおっ始めやがった。油断も隙もありゃしない、とはこのことだ。