苦い文学

電車の脆い席

優先席には対象外の人も座ることはできるが、この席を必要としている人が来たら譲らねばならない。

だが、だからといって、優先席以外の席では譲らなくていい、というわけではない。原則的にはどこの席であろうと譲るべきだとされている。

いっぽう、「どこの席でも譲るべき」という原則が通じない席もある。それは特急や新幹線の席だ。グリーン車や指定席はもちろんのこと、自由席でも誰も「困っている人に席を譲りましょう」などとアナウンスされることはない。

これはおそらく特急券の料金に「座れた場合はその席を占有できる」という権利が含まれているからだろう。それゆえ、どんなに席を必要とする人が来ても堂々と譲らずにいられる。

ここで、普通の電車に戻ると、通常の運賃には「座れた場合はその席を占有できる」という権利は含まれていないということになる。

人々はあたかも自分の席であるかのように座っているが、実際にはその席を自分の席だと主張する権利はないのだ。

だから、車掌がやってきて、乗客全員に「立て!」と命じたら、乗客たちはそれを拒否できない。優先席を除けば、電車の席ほど脆い基盤の上に設置されている座席はないのだ。

もちろん、乗客たちはそんなこと百も承知だ。しかし、たとえそうだとしても、混んでいる電車で座れずにいる乗客たちは、いつか車掌が現れて、自分のためだけに席を用意してくれるのではないかと、期待せずにはいられない。