YouTube での絶大な人気を利用して、政治家となったバーシーが、議場に現れたとき、政治家の誰もが震え上がった。ただし寝ている者は別だったが。もっとも、これは彼にとってはいかにも好都合。というのも「寝ている政治家を叩き起こす」が彼の唯一の公約だったのだから。
バーシーは議長席にのっしのっしと歩み寄り、議長の首根っこをむんずと掴んで引きずり下ろすや、仁王立ちになって、大音声で「起きろ!」と一喝した。歴史に残る政治活動が今まさに始まったのだ。
この衝撃的な発声に幾人もの政治家たちが寝とぼけた顔を上げた。それから始まったのが、独断の眠りより目覚めた政治家たちに対するバーシーの痛烈きわまりない罵倒だ。そして、固唾を飲んでテレビ中継を見守る国民たちは、彼の勇気ある政治を通じて、我が国の立法府にいかに不潔な悪徳が忍び込んでいるかを知ったのであった。
ああ、災いなるかな、寝ている政治家ども。連中が寝ている間にどんな夢を見ていたにせよ、バーシー現れしのちは、悪夢のみ見ることがここに決まったのである。
だが、勇猛なるバーシーの怒声響くなか、不穏な空気が徐々に議場に漂い始めた。愚かな議員たちは不安げに顔を見合わせる。なにかが、なにかがおかしいのだ。
バーシーもハタと異変に気づく。思わず口を閉じたその瞬間、議場の奥のほうから聞こえてきたのは、たかだかと鳴り渡る鼾の響き。見れば、三人の議員がそろって居眠りの真っ最中。
一人は仰向けで頭をぐらぐらと揺らし、もう一人はつっ伏して体をぴくつかせ、三人目ときたら、空いた議席に横になって自らの氏名標を枕にすやすやと。
凄まじい怒鳴り声あげ、怒髪天を衝く形相で駆け出すバーシー。さて、三議員の命運やいかに。