苦い文学

怪談

私の友人のAは新進気鋭の研究者で、現在ある大学で教えているが、彼がまだ研究室にいたころに不思議な出来事を経験したのだという。

その研究室にはある先輩の研究者がいて、非常に優秀で論文で賞をもらったり、大きな科研費を取ったりしていたのだそうだ。

あるとき、その先輩が私の友人にスマートフォンを渡してこんなことを言った。

「これ使っていいよ、俺は新しいの買ったから」

どうして自分にくれたのか、彼は尋ねようとしたが、先輩はそのまま立ち去ってしまった。そして、それを聞く機会は永遠に失われた。というのも、翌朝、その先輩は遺体となって発見されたのである。

友人は先輩の死に衝撃を受けながらも、もらったスマートフォンを使うことにした(最新式だったのだ)。だが、それが恐怖の始まりとなった。

というのも、ゲーム好きであった彼がそのスマートフォンでゲームを始めると、必ず電話に非通知で着信があるのだ。しかも、出てもいつも無言だった。それがもう度々続くので彼はすっかり気味悪くなり、やがて精神的に参ってしまった。

もしかしたら、友人もまた先輩と同じ末路を辿っていたかもしれない。研究室の教員が彼の異様な様子に気がつき、彼の持っているスマートフォンが原因だと見抜かなかったら。

教員は推理と調査を行い、その結果、そのスマートフォンの秘密が明らかになった。それは、その先輩がおそらく不正な手立てによって科研費で購入したものだったのだ。

科研費は研究のために用いられる公的な資金であり、原資は国民の税金である。教員は「そのようなお金で購入されたスマートフォンでゲームをすれば、国民から抗議の電話がかかってくるのは当たり前だ」と真相を明らかにした。