苦い文学

コップの魔術師

スピリチュアルなコーチングで名高い人物が街にやってくるというので、ある夜、講演を聞きに行った。会場は、その華やかな活躍にそぐわないようなうらぶれた集会場だった。我々は、人生を変える機会を求めてそこに集まったのだった。

講師にはカリスマティックな雰囲気が漂っていた。彼が演台に立つと、我々はたちまち彼に夢中になってしまった。

講師は演壇の上に、水の入ったコップを置いた。そして、深く味わいのある声で語りはじめた。

「ここに半分水の入ったコップがあります。皆さんはこの水を見てどう思いますか。『半分も入っている』と思うでしょうか、『半分しか入っていない』と思うでしょうか」

彼はコップをそっと持ち上げ、水と空気の間の薄く透明な境界を指で示した。不思議なことに、その境界線は、彼がコップを動かしても微塵も揺れなかった。

「この境界をよく見てください。集中して見るのです」

彼の声には催眠効果でもあるようだった。我々はもはやその境界線から目を離すことができなくなっていた。

「『半分も入っている』でしょうか、『半分しか入っていない』でしょうか」

そのとき、境界線に釘付けになった我々に奇怪な想念が湧いてきた。急に空気に悪意が満ち、その境界線をどんどん押し下げて水を圧迫しているように思えてきたのだ。

我々は苦しくなった。恐ろしくなった。すると、空気が揺れ動き、竜巻のように回転し出したではないか。空気は徐々に形をとりはじめ、ミサイルのようなものができあがった。そのミサイルは轟音を立てて水へと突き進み、境界線を破って水の領域に侵入した。恐ろしい爆発が起き、水は泡立ち血の色に濁った。

我々は絶叫した。と、その瞬間、すべての幻影は消え、半分の水の入った例のコップと講師だけが目の前に現れた。講師は、波ひとつたっていない境界を指さし、我々に再び聞いた。

「『半分も入っている』でしょうか、『半分しか入っていない』でしょうか」

我々の答えは明らかだった。半分しか入っていないのだ。そして、その残った半分ですら、いま恐ろしい危機に晒されているのだ。

我々は恐怖と憎悪と怒り、そして焦りを抱きながら帰途についた。我々の人生は変わったのだ。