『チュニジアの昔話と詩(Tunisische Märchen und Gedichte)』は、北アフリカのアラビア語研究の創始者の 1 人とも言える Hans Stumme が 1893 年にライプツィヒで刊行した本だ。当時のチュニジアの物語と詩がチュニジアのアラビア語で記録され、ドイツ語の訳がついている。
その中に、「悪い癖」という短い笑い話が載っている。こんな話だ。
ある家に客がやってくる。夫は 2 羽の鶏を妻に与え、料理するように言う。妻は料理しているうちに食べてしまう。子にも与えると、もっとくれと泣き出す。妻が殴ると子は「おじいさんが教えた悪い癖はやめろ」という。これを聞いた客が「悪い癖とはなんだ」と尋ねると、妻は「客の耳を切り取って料理することだ」と答える。これを聞いた客は逃げ出す。妻は夫に「客が鶏を持って逃げた」と言う。夫は追いかけて「2 つのうち 1 つ渡せ」という。客は「追いついたら 2 つともくれてやる」と言って逃げる。
100 年以上前に記録された物語だが、2017 年 8 月にチュニジアで私はほとんど同じ物語を聞かせてもらった。
ただし、私が聞いたバージョンでは、切り取られるのは「客の耳」ではなく「客の睾丸」になっていた。実はもっと悪い癖だった、というわけだ。