苦い文学, 難民, 入国管理局, 収容, 東京入国管理局

保証金の話

以前、あるビルマ人男性の身元保証人をしていた。

彼は牛久に収容されていて、私が面会に行くと、鉛筆で書いた妻と息子の絵を見せてくれた。物静かな人だった。そして、何回かの仮放免許可申請の末、仮放免が認められた。

仮放免されてすぐはわからなかったが、ビルマ人男性は、アルコール依存症だった。

もっとも、私は医者ではないからいい加減なことは言えない。だが、彼の友人たちも同じ意見だった。彼は静かに飲み続けた。だんだん生活も荒れてきた。それで、心配した友人たちは、帰国するように勧めていた。

妻子に長い間会っていない彼も、帰国する腹を固めてきたようだった。

そんな中、彼は病院に担ぎ込まれた(2017年3月のことだ)。お酒が原因で倒れたのだ。命に別状はなかったが、問題は医療費だった。彼には保険証もお金もないのだ。

病院の事務長は、身元保証人である私を呼び、請求書を私に見せた。27万円だ。

私は「払えない」と答えた。「身元保証人にはそのような義務はありません」

事務長は悲痛な顔をした。てっきり私が払ってくれるものと思っていたのだった。

だが、その時、私は30万円の保証金のことを思い出した。彼が牛久の入管から仮放免されたさいに収めたあのお金である。これは彼のお金だった。もし彼が帰国を考えているならば、この30万円があてにできる(もし帰国するつもりがなければ、事務長は悲痛な顔をしつづけることになろう)。

結局どうなったかというと、彼は帰国を決意した。そして、返還された保証金を医療費に充てることも承諾してくれた。

事務長もご満悦で、支払いを済ませ病院を去る私を、まるで長年の友人かのように見送ってくれたのだった。