青春時代には誰もが愛について悩む。私も学生時代、大いに愛に苦しんだものだった。
私を悩ませたのは、愛の二面性だった。愛は私の心を高鳴らせ、気高い気持ちで満たした。かと思うと、その同じ愛が、私の肉体にけがらわしい欲望を掻き立てるのだった。
「愛とは、精神から生まれた神聖なものなのだろうか。それとも、肉体から生まれた卑俗なものに過ぎないのだろうか」
この問いは私を苦しませ、悶えさせた。夜も眠れなくなった。ただでさえ繊細だった私は、やつれていった。
私の異変は周囲の注意を引かずにはいなかったようだ。当時、私は学生寮に寄宿していたのだが、寮長のO先輩が心配して声をかけてくれたのだった。
法学部で学ぶO先輩は私の悩みを聞くと、やさしく肩に手を置き、こう助言してくれた。
「そういう問題はあまり根を詰めて考えるものではないよ。むしろ心を落ち着けて、体の力を抜いてみたまえ。そうすればおのずと答えは見つかるだろう」
私は半信半疑であったものの、敬愛するO先輩の言葉なら、とさっそくその通りにしてみた。
そのとき私とO先輩は寮の1階ロビーのソファに座っていた。私はソファに身を沈め、目をつぶり、緊張を解いた。
すると、私の脳裏に精神と肉体が立ち現れた。そして、精神と肉体の間に美しく輝く丸い存在が浮かんでいた。
愛だった。
精神と肉体はといえば、その愛を自分の側に引き寄せようとしているのだった。愛は両者の間でひっぱられ、その力があまりに強くなったので、苦悶の叫びをあげた。すると、精神はひっぱるのをやめ、肉欲は愛を我が物とした。
私は目を開いた。O先輩が尋ねた。「答えは見つかったかな。いや、その表情を見るかぎり問うまでもなさそうだな」
「はい」と私は明るい声で答えた。「これもO先輩の名裁きのおかげです」