このままではまずい、と私は焦り出したが、お正月休みが終わっても、1 月が終わろうとしても、私は練習を始めなかった。それは、2 月に入れば、スケジュール的にかなりの時間を練習に当てられることがわかっていたからだ。だから、動かざること山のごとしだ。
さて、義太夫の三味線は語りに合わせて演奏するものだ。だから、1 曲は非常に長い。もちろん初心者にそんな長いものは弾けない。実践コースでは、長い演奏の基本となるような小曲(めりやす)を練習した。いわば名リフ集だ。「木のぼり」「わし」「三番叟」などの名前がついている。
「木のぼり」にしても、「わし」にしても、それぞれどの浄瑠璃のどの場面で使われるか決まっている。これらのめりやすが組み合わさって、1 曲ができあがる。だから、プロの三味線弾きは、短いフレーズが頭の中にたくさん詰まっている。ちょうど、若いころのボブ・ディランがどんな曲でも覚えていて、曲名を出されれば、すぐに弾いてみせた、というのと同じだ。いや、違うかもしれない。「No, no, no it ain’t me babe」だ(ボブ・ディラン作「悲しきベイブ」より)。
ディランにうつつを抜かしているあいだにもう 2 月だ。私はようやく練習する時間を得た。講座の録音は許されていたから、それを聴きながら、毎晩、三味線を引っ張り出した。とはいっても、練習は 20 分だけだ。なぜなら、それ以上の正座は私にとって危険だから。間に合うのか。