この日本で生まれた史上最高の天才が、一冊の本を書き残した。それは 100 ページにも満たないソフトカバーの書物だが、天才がもてる能力をすべて注ぎ込み、この世界のすべてを言語化したのだった。
言語化とは人類が持つ最高の能力だ。この能力があれば、地頭がよくなり、人たらしになり、引き寄せの法則が発動しないことはない。天才は究極の言語化により、人類の地平を広げようとしたのだ。
この書を開き、読み始めた人がいる。それは驚くべき体験だった。1 ページ目を読むや否や、次々と腑に落ちることが生じ、思考の解像度もうなぎのぼりとなった。そして、そんな印象がページを繰るたびに段違いに深まっていくのだった。2 ページ目にはすぐやる人になった。3 ページ目を読むと嫌われる勇気が生じた。4 ページ目には富裕層への道が開かれた……。
だが、10 ページぐらいから、読者は異変を感じ始める。軽い眩暈が生じ、感覚が麻痺する。やがて意識の錯誤が始まる。ここで無理やり書物を取り上げなければ、読者は錯乱状態に陥り、二度と正気に戻れなくなる。
言語化とは太陽のようなものだ。その強烈な光が、精神の闇をくまなく吹き飛ばし、焼き尽くしてしまうのだ。
言語化の専門家は警告する。「これはただの自己啓発書ではありません。恐ろしい魔術の書なのです。最後まで読んだ者は、世界を破滅させる魔力を手に入れるでしょう……」
無限の力を秘めたその書は、今、国家機密として奥深い地下の施設で厳重に保管されている。