その蟹は、平家蟹と呼ばれることに怒っている。その怒りがあまりにも強いので、甲羅に浮かび上がる顔のような模様も、憤怒の度合いが増したようにみえた。
「どうして平家蟹という名称がおイヤなのですか。由緒ある名前なのに」と私が尋ねると、蟹は答える。
「だって、私たちの模様は、その平家とやらとはなんの関係もないからですよ。平家が? 壇ノ浦で? 入水? ハハハ、バカを言っちゃ困りますよ。私たちは、平家が滅びる前から、ずっとこの顔を背負って生きてきたのですよ。なんなら、祇園精舎の鐘ができる前からですよ」
「ならお聞きしますが」と私はちょっと意地悪な質問。「平家と関係がないなら、どうしてそんな悲憤に満ちたお顔をしてらっしゃるのでしょうか」
蟹は憤然とハサミを振り回す。「ああ、人間ときたらこれだ。なんでも自分中心でないと気が済まないのだから。視野が狭いのです。これはただの模様ですよ! もう、ほうっておいてください!」
と言い捨てると、平家蟹はどんどん海の奥へと潜っていってしまった。
「日本を笑顔にするプロジェクト」の一環として、平家蟹を笑顔にするイベントを考えていたが、難しいかもしれない。源氏の末裔のサプライズ登場と涙の和解まで決まっていたのだが……