足を踏み入れた瞬間、店内の空気に常ならぬところがあって、目当てのものに突き進もうとする彼の勢いを削いだ。店の片側にはアンティーク調の棚が並んでいたが、そこには本はなく、色とりどりの衣服が段々に詰められていた。そして、反対側には重たげな色調の上着がぎっしり並べられている。戸惑いながら彼は足を踏み出したが、その足は床に並べられたエナメルの靴の列を乱した。
それらの衣服の襞の奥に、丸い黒縁の眼鏡をかけた痩せた男が立って、冷たい目で闖入者を見つめていた。友人はショーウィンドウにある本のことを尋ねた。店員は怪訝な顔をしている。友人は深呼吸して、もう一度、繰り返した。
「ああ」と店員は合点が行った表情で答えた。「すません。あれは売り物ではありません。ディスプレイ用のです」
思いもよらぬ言葉に驚いた友人がさらに尋ねると、あの宝物は、この古着屋で飾りとして用いられている「アンティーク洋書」であることが明らかになった。
「それでもいいです。ぜひ売ってください」
店員は困った顔で説明した。これらのディスプレイ用の小物は専門の業者からレンタルされているものなので、勝手に売ることはできない、と。
「では、その業者の連絡先を教えてくれませんか」
そのとき、古着屋の扉が押し開けられ、二人組が入店してきた。古着屋の店員は客に声をかけ、その動きをゆっくりと目で追いはじめた。友人が声をかけて注意を引くと、店員は丁寧に、だが話を打ち切るようにこう言った。
「業者に連絡をしておきますので、明日、またご来店ください」
店を出た友人は、ショーウィンドウからあの一冊をもう一度確認しようと立ち止まった。だが、まるで、往年の大スターが、場末の劇場でもぎりをしている姿を見るような気がして、そのまま立ち去った。