鞭で打たれた運搬人は苦悶の叫びをあげた。制服の男は運搬人の腕を乱暴に掴み、荷車の進路の外へと引きずり出した。
「『買える苦労』の搬送は大変な重労働なのです。いえ、そればかりでなく大変に危険なのです」
私がその理由を尋ねると、飲み物売りは答えた。
「粗末に扱うと爆発するのですよ。だからこそ奴隷の働きぶりを厳しく監督しなくてはならないのです」
「あなたの国の王様は、買い集めた『買える苦労』をどうしているのですか。若者を明るくするばかりというわけにはいきますまい」
「実は、私たちもよくは知らないのですよ。王様が大量の苦労をどうなさろうとお考えなのか。王様がこの苦労を集める苦労として利用されているというのが、衆人の推察するところです」
私は、貯蔵された大量の苦労がドカーンと暴発する可能性もあるのではと気になったが、口にはしなかった。再び鞭の鋭い音が聞こえた。見ると、監督官がまた誰かを打っていた。その相手はまだ年端もいかぬ子どものようだった。
そのとき私はジュースが、氷も溶けて、生ぬるくなっているのに気がついた。飲みかけのジュースのコップを屋台のはじに置いた。そして、立ち去るそぶりを見せながら、飲み物売りにこう皮肉を言わずにはいられなかった。
「王様のご尽力あって、この国からはもう『買える苦労』だけは払底してしまったようですな!」
すると、飲み物売りの表情が変わった。彼は立ち去ろうとする私の腕を掴んで引き寄せ、耳元でささやいた。
「内密に願いますが、お望みなら、闇で苦労を買えるところを、ご案内できますよ。純度は保証つきです」
私はそれには答えずに立ち去り、若者のさんざめきを背後にしながら城門を出た。そして、再び森の道を歩き始めた。ときおり吹いてくる風の音が鞭の音に聞こえた。(おわり)