苦い文学

ぜんぜん

私たち日本人にとって「全然」は心の支えだ。なぜなら、この言葉ひとつで、自分の自尊心を高めることができるからだ。

というのも、日本人の頭の中では「全然」はいつも「ない」と結びつくものと決まっていて、「全然ある」など間違った日本語を使う人間を、気持〜ちよく批判させてくれるからだ。なので、日本人はいつも「全然」の使い方に注意を怠らない。

しかし、「ない」でない「全然」はかなり昔から用例があると言われている。なので、間違いとは言い切れない。しかも「全然ある」という言い方にも、ちゃんと否定の論理が働いている。つまり「全然ある」などの表現は、たいてい「(あなたの思っていることは)全然(あり得ない、むしろ)ある」という文脈で用いられる。「全然」は相手の頭の中の想定について「ない」と言っているのだ。だから「全然ある」とか「全然食べるよ」とかは全然間違いではない。

ところで、私は一昨年、タイからビルマに入国して、カレン人の紛争地域を旅した。同行してくれたのは在日カレン人だった。その彼と今日、会ってご飯を食べた。彼は一昨年訪問した場所について日本語でこういった。

「あそこはあの時は行けたけど、今はもう戦争で、全然あぶないよ」

私たちの否定じゃない「全然」が外国人の日本語でも活躍してた。全然いい。