苦い文学

言語化マジック

私は口下手で、いつもつまらない思いばかりしている。自分の意見や気持ちをはっきり言語化できるようになったらいいな、と思っていたところに、「最強言語化力育成キット」という教材に出会った。

この教材を活用すれば「思いのままの言語化力が身につく!」とある。なんでも言語化力を上げると、地頭もよくなるし、人たらしにもなるのだとか。価格は 20 万円だ。ウェブサイトを見ているうちに、私はこれしかないという気がしてきた。お金をかき集めてキットの購入に踏み切った。

数日して、「最強言語化力育成キット」が送られてきた。箱を開けて私は絶句した。中には国語辞典一冊と USB メモリがひとつ入っているだけだったから。私は震える手で USB メモリをパソコンに差し込んだ。国語辞典を AI が朗読したファイルだった。

私はキットの箱に書かれていたカスタマーセンターに電話した。すると、男が出た。返金を求める私に、男はこう答えた。

「承知いたしました。直ちに返金いたします」

「ではさっそく手続きを行なってください」

「はい。20 万円!」

電話が切れて、そのままいくらかけても繋がらなくなった。何日も考えたあげく気がついた。現金を言語化して返金されたのだ。

私は今、警察で被害を言語化しているところだ。