苦い文学

駅の秘密(2)

フードの男が囚われの男に近づくと、人々は静かに離れ、会議室の壁際に立った。囚われの男はフードの男に泣きながら助けを乞うた。

「静かに」とフードの男が相手の額に手を置くと、男はしゃっくりをし、喉を鳴らしながら激しく呼吸をした。フードの男は顔を相手に近づけると、目深に被ったフードをゆっくりと外した。男の目が恐怖に開き、音にならない絶叫をあげているかのように歯を剥き出しにした。

毛の房がまるで生き物のようにうごめいていた。その毛はフードを脱いだ男の額から伸び、囚われの男の顔に取りつくと、細長い虫のように男の顔の上を這い回った。声を失った囚われの男は口の奥を鋭く鳴らしながらのけぞり、そのまま動かなくなった。

「ああ、頭の中までロックされている」 額から毛を生やした男は目を瞑ながら、つぶやいた。

「迷宮だが、これは抜けられる。だが、その先の金庫はどうする。番号は、番号は……」 男は笑い声を上げた。「いや、金庫などにはない。机の上のこの手紙だ。ほら、あった……」

数分後、男は再びフード姿に戻り、会議室のボードの前に立つとマーカーで下手な字で「日本、男、上下」と書いた。そして、見守っていた男たちのほうを向くと、気を失っている男を顎で示して「こいつはもう解放していいぞ。記憶は消してある。あと、これも頼む」とポケットから白いビニール袋を取り出した。