この世界には、口に出しては言ってはいけないことがあるの。そう、男たちが言わないで我慢している言葉がある。なぜなら、口にすると世界を取り返しがつかないくらいに変えてしまうから。男たちにはこんなことは言えないわ。男の言葉は本気だからね。だから、言いたくてもただぐっと口を引き絞るばかり。
でも、歴史のある時点で、男たちはこの言葉を世界に向けて射出する方法を見つけたの。それは私たち女の口を使うこと。男たちは自分の代わりに女たちに危険な言葉を言わせる方法を編み出したの。男たちは、女が言うなら大丈夫だって考えたのよ。どうしてかというと、女や子どものいうことなど、誰も本気にしないから。
それに、もし誰かが本気にして怒り出しても、男たちは自分が言ったんじゃないって言い張れるし、その人が女に危害を加えようとしても守ってやればいいって思ってた。そう、絶対に、男は自分は損しないって踏んでたの。
女たちは男に代わって危険なことを言いつづけたわ。絶対に世界を変えない安全で危険な言葉。男たちはその言いたくても言えなかった言葉を聞きに、女の周りに集まった。女が口を動かすたびに、男たちは快感に身震いしたわ。
でも、女の口を使った男たちの危険な遊びは長くは続かなかったの。快楽に溺れた男たちはもっともっとその言葉を聞きたくて、いちばん淫らな口をした女に自分たちの持っているものすべてを与えたの。
そのせいで、女の言葉は本気になった。で、私たち女も、男たちも、今、炎に包まれた世界で生きているってわけ。