苦い文学

自由な話

去年、ポーランドに行ったとき、行きの飛行機で隣に座ったポーランド人の青年に話しかけられた。なんでも 1 ヶ月北海道に滞在して、いろいろな電車に乗ったのだという。彼はいろいろ旅のことを話してくれたが、私は電車に興味がないので、よくわからないことも多かった。

飛行機は早朝ワルシャワに着き、私たちはそこで別れた。ポーランドの地方都市に住む彼は、国内便に乗り継いで戻り、その足で会社に行くという話だった。そんなふうに長期の旅行などできない私は、ずいぶん自由な話だ、と思った。

それから 1 年以上たち、その彼から、2 日ほど前、LINE メッセージが送られてきた。東京に行くから会わないかというのだ。ここ 1 〜 2ヶ月、私は余裕のない状況が続いていて、時間を割くことなどできなかったが、思えばこれまでいろいろな外国人のお世話になっている。それを考えると、断るわけにはいかない。私は彼と会い、居酒屋で夕食を食べた。

そして、話を聞いて驚いたのだが、彼が来たのは実は 9 月だというのだ。この 3 ヶ月の間に北海道から鹿児島まで旅をしたのだという。やはりいろいろいな電車の話をしてくれたが、私はわからないのでやはり聞き流した。

「しかし、3 ヶ月の休みなんてよく取れるね」と私がいうと、彼はこう答えた。「いや、勤めていた会社が潰れて、それで来たんだ」

数日後に日本を発つ彼は、韓国に 1 週間ほど滞在してから、ポーランドに帰国するという。自由な話だ。いや、むしろ、不自由な話だ。