コレオグラファーの手配によって男は病院に緊急搬送されたが、そのときにはもう意識を取り戻していた。医師は簡単な診察のすえ、過労と結論づけた。フラフラと病院を出て行こうとする男を、コレオグラファーは追いかけた。
男は振り向いた。病院の冷たい明かりの中では、男の顔の皺は無惨なほど深く見えた。コレオグラファーは、悲劇の雰囲気におののきながら、男をかくも疲労困憊させたあのダンスについて尋ねた。
男の言葉は、途切れがちな上に錯綜し、さらにその一語一語に暗い残像が付きまとって理解を妨げるものであったが、コレオグラファーは大事なところは掴めたように思った。
四面楚歌。
つまり、逃げ場を失った者にだけに聞こえるリズムが、あの異様なダンスを喚起したのだ。
夜の闇の中に消えていく男の後ろ姿を見つめるコレオグラファーに、自分が人生を捧げてきたダンスがまったく違う容貌をもって浮かび上がってきた。
「なんという悲劇だろうか! あの謎めいたダンス、意味を欠いた振りの連鎖と、キレッキレでありながらバラッバラな動き、捉えがたいテンポ……これらすべてが八方塞がりの絶望が生み出した表現だとは……」
コレオグラファーは、今、この世界に潜むおそるべき残虐さを目の当たりにしていた。「そうだ、彼だけではないのだ。孤独のダンサーは他にもたくさんいるのだ」 夜の街はどこまでも冷酷無比で、あちこちで孤独なダンスが始まったかのように揺らいでいた。「そうだ、孤独のダンサーをたくさん集めてダンス・パフォーマンス・イベントを行おう」