苦い文学

時代にログインできない男たち(1)

「あなたのような中高年男性は、すきあらば昔をなつかしもうとするし、目を離せば今と女性と外国人に対するヘイトスピーチに夢中になっているという具合で、たいへん評判が悪いのです」とカウンセラー。

「どうしてだと思いますか? それはズバリ、時代にログインできていないからです。考えてもみてください。OS でもアプリでも、アップデートするときにはログインが必要でしょう。あなたがアップデートできないのは、この今という時代にログインできていないからなのです」

「先生、私はずいぶんパッチを当ててきたように思うのですが……」と私。

「お黙りなさい! こんなひどい脆弱性は見たことがない。私が言っているのは、メイジャー・アップデートのことです。これは絶対に時代にログインしなくてはできませんから、すぐに取りかかってください」

私はカウンセラーの部屋を出て、自分の机に戻るとさっそくログイン用のパスワードを記した紙切れを探したが、どこにもなかった。