苦い文学

ワーク・ライフ・バランス

社長がこんなことを言い出した。

「ワーク・ライフ・バランスを捨てて、働かねばならない」

社員の一人が言った。「私たちも捨てねばならないのでしょうか」

「社長が捨てるのに、平社員が捨てない会社がどこにある」と社長。「会社のために働いて働いて働くのだ。さもなければクビだ!」

社長が行ってしまうと、社員たちは集まって相談した。「燃えるゴミだろうか? それとも粗大ゴミだろうか?」 「リサイクルかも」 すると古株の社員が呆れたように言った。「バカなことを言うな。家庭ゴミなわけない。事業系ゴミだ!」

そこで、市役所の環境課に問い合わせたが、だれもワーク・ライフ・バランスの廃棄法を知らないのだった。

「市役所ではなく政府に直接に聞いてください」 こう言われてはもう打つ手なしだ。

困り果てた社員たちは、ワーク・ライフ・バランスを廃棄するよりも簡単なことを思いついた。真夜中、全員で社長の家に行き、酒を飲んで寝ている社長を簀巻きにして、東京湾に投棄した。真っ暗闇だったので、だれがなにをしているかだれにもわからなかった。