苦い文学

駆け込み乗車

今日電車に乗っていたら、普段と違うアナウンスが聞こえてきた。

「先ほど〇〇駅で駆け込み乗車をされた方、怪我の有無と荷物の破損を確認したいので車掌室までおいでください」

私たちが知っているのは、駆け込み乗車や無理な乗車をした人は、弁明したり、否定したりする機会なしに、一方的にアナウンスで怒られることだ。

だが、この日私が聞いたアナウンスは今までのものとは違うものだ。これはいったいなにを意味しているのだろうか?

車掌たちが駆け込み乗車者たちに対して抱いている憎悪のほどを考えれば、このアナウンスが親切心から出たものでないことは明瞭だ。とすると、ここになんらかのトラップが仕掛けられていることは疑いない。

だが、同様にはっきりしているのは、ちょうど私がすぐにしてみせたように、誰もがこのトラップを容易に見抜きうるということだ。誰一人、この言葉に釣られて車掌室に行きはしないだろう。

では、車掌たちはそれに気がつかないほど愚かなのだろうか? これもやはりありそうもないことだ。とすれば、このアナウンスには、乗客に向けたのではない、別の隠れた意図があるとしか考えられない。

その意図とはなんだろうか。私はさまざまな可能性をひとつひとつ検討し、ある解釈に逢着した。

車掌は、ある「魔」が、人に紛れて車両内に侵入したのを発見したのだ。その魔の存在が大事故を引き起こすことを知っていた車掌は、大惨事を未然に防ぐために、魔をアナウンスで車掌室におびき寄せ、封じようとした……これが今のところもっとも合理的な解釈である。