知り合いの日本語教師に、天使のメールが届いたというのでご報告したい。
その人は、ある朝、日本語学校で授業の準備をしていたそうだ。1コマ目から授業があるので、教材を持って、少し早めに教室に行ったのだった。
すでに何人かの学生が来ていて、互いに挨拶をする。彼が今日担当するのは初級クラスで、ネパールやらミャンマー・ベトナムの学生ばかりだ。これらの学生は「非漢字圏」の学生と呼ばれる。中国・台湾といった漢字圏ではないということだが、ひとことでいえば、日本語の習得にさいし、漢字で苦労し、漢字でつまづくことの多い学生たちだ。
授業開始まであと 10 分ばかりとなったとき、彼の携帯にメールの通知が来た。メールアプリを開いて、送信者を見ると、クラスのある学生からだ。そして、そのメールの件名にはこう書かれていた。
「天使ややがおくれた」
「天使やや」とはなんだろうか。そして、その天使の到来が遅れた、とは。ある種の終末論を想起させるこのメールの本文には、なにも書かれておらず、ただ写真が添付されているだけだ。
彼はその写真を開くのに躊躇した。神々しいエンジェル・アートかもしれない。人前で開くのにはばかられるような画像かもしれない。あるいは、学生の携帯がウイルスに感染した恐れだってある。
だが、彼は開けた。
写真には、電車の遅延を知らせる電光掲示板が写っていた。
メッセージは「電車が遅れた」だった。