苦い文学

ブラックホール人

私たちの市で博士と呼ばれている人が、ブラックホールを発見したと、市役所の前で発表した。藪から棒に星の世界へのロマンを掻き立てられた市民は博士を取り囲み、口々に質問した。どこに? どうやって?

「ご覧にいれましょう」

博士は市民を引き連れて、市役所の近くにある公園に向かった。そして、公園の入り口にあるポストの前に立つと、こう告げた。

「これがブラックホールなのです。何年にも渡り、このポストを観測してきた結果、その結論に達したのです」

市民はこう尋ねずにはいられなかった。「どうしてわかったのですか?」「エビデンスを示せ!」

「その証拠はこれです」と博士は手帳の1ページをを見せた。そこには日付が並べられていた。「ここに書かれている日付は、私がこのポストに手紙を投函した日です。そして、その手紙はどれも届かなかったのです! つまり、このポストの中に入ったら最後、どんなものすら外に出てくることは不可能なのです。そんなことを起こしうるのは、全宇宙でブラックホールだけです!」

だれもが博士の慧眼に感嘆し、興奮して叫んだ。「こんな田舎にそんな大したものがあるとは!」「市の誇りだ!」

ちょうどその様子を見ていた郵便配達員、大急ぎで郵便局に戻ると、郵便局長に公園の「ブラックホール」のことを話し、こんな告白をした。

「もうしわけありません、配達を終わらせることができず、何通もの手紙を勝手に捨てていました!」 

……結局、局長はいろいろな事情から、配達員の「犯罪」を隠蔽せざるをえなかった。それで、ブラックホールという嘘が1日でも長く続くように、今では局長は、誰かが来るたびに、ポストに仕掛けたマイクでこんなふうに話しかけている。

「聞こえますか……聞こえますか……私はブラックホール人……」