苦い文学

阿弥陀胸割異聞

「阿弥陀胸割」とは、昔の語り物のひとつで、落ちぶれた姉と弟の物語だ。

ある金持ちがいて、その息子が病気でもう死にそうときた。医者がいうには、病気を治すには、同い年の娘の生肝が必要なのだという。そこに現れたのが、姉と弟。姉は条件にぴったりだ。金持ちが事情を話すと、姉は、弟の面倒を見てくれるならばと、引き受ける。

息子の病が重くなると、金持ちは姉と弟のいる阿弥陀堂に人をやり、姉を殺し、生肝を取らせる。その生肝を食べた息子はたちまち回復だ。後になって、阿弥陀堂に行ってみると、姉と弟が無傷で寝ている。その傍らには、胸が割れて血に染まった阿弥陀仏が。なんと身代わりになってくれたのだ……。

私はこの物語を読んで、ひらめいた。

実は私の友人で焼肉屋で働く男が、禁制のレバ刺しを内緒で食べさせてやると誘ってくれたのだ。私としては行きたいのはやまやまだったが、運悪く当局に踏み込まれたりしたら、厄介なことになるのではと二の足を踏んでいた。

だが、万が一そんな事態になっても、もう大丈夫。持参の胸の割れた阿弥陀像を当局に見せて「生肝はこっちの」と主張すれば、なんとか切り抜けられそうではないか……。