苦い文学

鴎外の害

森鴎外という作家はご存知だろうか。昔の文豪だ。

少し本でも読んで勉強しようと、たまたま手に取った本の作者が森鴎外だった。それは短編集で、最初の何編かは面白く読めたのだが、ある作品で私はもう先に進めなくなってしまった。怒りに身が震えて、思わずその本を壁に投げつけてしまった。

それは「普請中」という作品だ。この小説は、作中のこんな台詞で有名なのだ。

「日本はまだ普請中だ」

なんということを言うのだろうか。文豪ともあろう人が。日本人ほど文豪に弱い人々はいないのだ。文豪のいうことを信じすぎる。おかげで、日本人は日本は普請中だとすっかり信じ込んでしまった。いや、それどころか、普請中こそ日本だと思い込んでしまったのだ。

その結果、何が起きただろうか。いつまで経っても終わらない駅の工事だ。昨日あっちにあったと思ったら今日は行手を塞ぐ神出鬼没の白の仮囲いだ。目まぐるしいルートの変更で、わたしたちを迂回させ、迷わせ、その挙句、新しくできた角で出会い頭に衝突させ、頭を砕く、恐るべき普請中だ。

本当に迷惑な話だ。文豪が普請中にお墨付きを与えたせいで、わたしたち日本人は、永遠に完成することのない駅構内をさ迷い続ける羽目になったのだ。