黒鍬市には昔、数名の外国人が住んでいたが、コロナの時に仕事がなくなって出て行ってしまった。それ以来、市にはひとりの外国人も住民登録していない。
もっとも、市からは外国人だけでなく、若い人も流出してしまっていた。このままでは黒鍬市が消滅してしまう、という危機感から、若い人が帰ってくるように市は U ターン事業を始めたが、いっこうに効き目はなかった。そこで、市長は議会でこんな提案をした。
「若い人は無理でも、若い外国人に住んでもらうホームタウン政策を実施するのはどうだろうか。なんといっても数年前は外国人が住んでいたのだから」
何人かの議員は賛成したが、他の議員たちは猛反対した。
「得体の知れない外人を連れてきてどうしようというのだ!」「移民が来ると治安が悪化する!」「黒鍬が乗っ取られてしまう!」
これら議員たちの言い草があまりにひどいので市長もカッとなって言い返した。
「頭が硬くて古くさいケチどもだ!」
それ以来、黒鍬市は、市長派と反対派の議員で真っ二つに割れてしまった。なにしろ小さな市だから、それだけでは収まらない。市民同士までいがみ合う始末で、とうとう夏の盆踊りで暴力沙汰まで勃発した。もうヤクザの抗争みたいで、敵と見れば容赦ない。夜の道など危なくて歩けないのだ。
今や黒鍬市は、移民がひとりもいないのに、移民のせいで治安が悪化した町として、全国的に有名になっている。