苦い文学

最後の外貨の禍い(5)

私がパスポートを渡すと、男は驚くべきことを命じた。

「スーツケースを持ってきなさい」

チェックインカウンターに出したばかりなのに? もうエミレーツのタグがついているのに? 男は私を連れてチェックインカウンターに戻る。男の制服の後ろに「DOUANE」と大きく書かれているのが見えた。税関職員だ。男はチェックインカウンターのスタッフにスーツケースを尋ねる。私は「どうかもう奥のほうに運ばれていてくれ」と願うが、それはまだカウンターの裏にあった。

私はそのスーツケースを引っ張り出して、男の後ろをついていく。男は脇の部屋に私を入れる。女の税関職員がいた。さっき男と一緒にいた職員だ。小部屋の中には大きな台があり、2 人はそこにスーツケースをのせるように命じた。

「いくら持っているのだ。全部出しなさい」と男の職員。

このとき私はリュックを背負い、財布などの入った小さなポーチを肩からかけていた。抵抗するのはかえってよくないと思い、ポーチの中から財布を出し、そこから 1 万円札 5 枚とユーロの札(300 ユーロ程度)を出した。

「こちらに渡しなさい」

これも迷ったが、拒否することはできない。

「これで全部か?」

「全部です」

「他にないのか」

「あ、あります」 私は 30 ディナール(約 1,500 円)ほど入ったビニールの小銭入れを取り出した。チュニジアから持ち出し禁止のこの通貨を自ら差し出せば、多少は心証は良くなるはずとの狙いだったが、税関職員はそれにはまったく興味を示さずに質問してきた。

「本当に持っていないのか? 10,000 ドルは?」

「ありません」

「5,000 ドルもか?」

「ないです」

すると、女の職員が私のポーチを指差していった。

「あのポケットの中にありそうだ」

私は自信をもってティッシュとウェットティッシュを見せた。ここで私は、例の外貨申告書を出す機会が到来したと感じた。私は財布から外貨申告書を取り出し、男の職員に渡した。この公的書類は、確かに効果を発揮したようだった。

「よろしい」と男の職員は言った。「では、スーツケースを開けるのだ!」