苦い文学

最後の外貨の禍い(4)

空港に着くと、私はエミレーツ航空のチェックイン・カウンターに向かった。カウンターは 8 つあり、1 〜 3 がファースト・ビジネスクラスなどの優先カウンター、4 〜 8 がエコノミーだ。エコノミーの列は長い。私は比較的短そうな 8 の列に並んだ。

進まない列の後ろに立っていると、「荷物係」と書かれた青のベストを着たおじさんが話しかけてきた。

「中国人か、日本人か」

私は面倒くさい雰囲気を感じて黙っていた。「ここに並ばないで、3 番目のカウンターに行っていいぞ」

しかし、私はエコノミーだ。うかつに優先カウンターに移動して並び直しになる恐れもあった。私が黙っていると、そのおじさんは別のところに行ってしまった。

だが、列は進まない。カウンターの前にいるのは子どもを連れた家族だ。彼らが問題なのだろうか? しかし、他の列を見るとやはり止まっている。待つしかない。

あの荷物係のおじさんが戻ってきた。「20 ディナール払えば、私が特別に早く終わらせてあげるぞ」

20 ディナールは千円ぐらいだ。私があいかわらず黙っていると、おじさんは続けた。「たった 20 ディナールじゃないか。じゃあ、10 ディナールならどうだ。5 ディナールでも……」

おじさんは立ち去ったが、私は進まない列の中で、20 ディナールのことを考え続けた。列が止まっているのは、乗客というよりも、カウンターそのものが止まっている感じだ。たとえ、お金を払ったとしても、カウンターに支障があるのなら、どうにもならないものはならない。

カウンターのほうを見ると、スタッフとは別の 2 人の男女が荷物のベルコンベアーのところに立っていた。2 人とも、カーキ色の制服を着ている。なんとなく私を見ているように感じた。

列が動き始めた。並び始めて 40 分後に私はようやくカウンターに到着した。スーツケースを預け、搭乗券をもらう。そのまま出国審査のためのゲートに向かう。だがそのとき、背後から呼びかけられた。

「ちょっと待ちなさい。パスポートを出しなさい」 先ほど私を見ていた制服の男だった。