さて、私の物語は出国の前日から始まる。私のいう「外貨の禍い」を避けるため、入国時に外貨申告書を取得したのだが、それが紛失していることが、帰国の準備をしているときに明らかになったのだ。
財布にまとめて入れていたのだが、申告書と両替証明書1枚だけがないのだ。お金は全額あるから、盗難という可能性は考えられない。一度詰めた荷物をひっくり返し、本やノートに挟まってないか調べた。
結局それは財布の他のポケットに折りたたまれていたのだが、それが見つかるまでのあいだ、私は、自らの不注意により将来した財産の危機にどう対応しようか真剣に考えた。
お金を身につけていると厄介なので、スーツケースに隠しておいたら安全ではないだろうか? 持ってきた森鴎外の本の間に一枚一枚挟んで? いや、これは万が一バレた場合、危険だと思い直したのだが、それは後で考えれば本当にそうだったのだ。
次に、私は、体を拭くボディーシートの袋の中に隠すことを思いついた。お札をそのまま入れたのでは濡れてしまうので、お札を折りたたみ、ビニール袋で包む。それを何枚かのボディシートの下に埋め込んで、蓋のシールで封印するのだ。麻薬の隠し方だ。これをリュックの底に放り込んだ。
幸いにも、外貨申告書が見つかったので、この手は行使せずに済んだし、使ったとしても、安全かどうかはわからない。