苦い文学

チュニス湖のケー100

観光地には楽しい乗り物がつきものだ。浅草の人力車もそうだし、ヨーロッパの都市には遊覧馬車もある。またロードトレインと呼ばれる乗り物もある。これは機関車などを模した車両に客車がいくつかつなげたもので、線路ではなく道路を走る。若い人には「走れ!ケー100」といったほうがわかりやすいかもしれない。

友人が、チュニス近くのチュニス湖に面した観光地でこのロードトレインの運転手を始めた。おいでというので、チュニジア滞在最後の夜に遊びに行った。

観光地ではこうした楽しい乗り物に絶対に乗らない人がいる。私もそのひとりだが、今回はその認識を改めた。

たった15分、公道を一周するだけだが、とても楽しかった。人気もあって、一人3ディナールという安さもあるのか、すぐに客車は観光客でいっぱいになる。チュニジア人の家族連れはもちろんのこと、アルジェリアやリビア、そしてそれ以外の国からの観光客もいるようだ。のんびりとしたアトラクションだが、これがチュニジアの夜の雰囲気にあっていた。

さて、私は午後6時に友人とその観光地で待ち合わせをした。場所はチュニスの市街から5キロほど離れているので、タクシーで行き、少し早めに着いた。機関車が客車とともに道路に停めてあったので、私はそこで待っていた。

すると、ひとりの無精髭の男性がやってきた。何やらぶつぶつ言っている。怒っているようだ。その人は機関車のドアを開けると、乱暴に中のものを取り出し、整備を始めた。私の友人の同僚と見えた。

イライラしている様子を見て、今日は腹の虫の居所が悪いのだろうか、それとも何か問題でも発生したのだろうか、と私は不安になった。やがて私の友人がやってきて、あの男性を指さした。

「彼は安全面の担当者だ。あだ名はブルギバ(チュニジア初代大統領)だ。なぜならクレイジーな男だから」

なんだ、ただクレイジーなだけだった、と私は安心した。