苦い文学

監視役の選手

プロサッカーでもプロ野球でもいいのだが、あるチームに「選手がたるんでいないか監視するために、レギュラー入りした選手」がいたとしたらどうだろうか。その選手は、チームでプレーするのが目的ではないのだ。試合の間中、チームの他の選手が、気を抜いていないか、あくびをしていないか、ぼんやりしていないか目を光らせていて、もしそうした選手を見かけたら、試合中のどんな場面でもおかまいなく、急行して制裁を加えるのだ。

試合を見ている観客は「私たちはお金を払ってこのチームを応援しているのだから、怠慢プレーなど許せない」とこの選手に大喜びだ。だが、同時に、こんなことも考えずにはいられない。

「この監視役の選手の代わりに、もっと有能な選手を入れれば、試合が盛り上がるのに」

確かに試合は動きに欠けて少し面白くないのだ。すると、ここで監督が立ち上がり、選手交代の指示を出す。観客たちは「そうだ、ここでスター選手に交代だ!」と湧くが、こんなアナウンスが聞こえてくるのだ。

「〇〇選手に変わりまして、監視、〇〇選手」

なんと、監視役が増えたのだ。つまり、限られたレギュラーメンバーに、プレーを目的としない選手が 2 人入ることになる。ますます試合はつまらなくなる。

だが、監督はそんなことおかまいなしのようだ。それからも、次々と交代を指示し、その度に監視役が増えていく。そして、ついに試合に出ている選手全員が監視役になってしまう。

こんなつまらない試合はない、というかもう試合ですらない。なにしろいるのは、監視だけができるが、プレーはいっさいできない「選手」なのだから。ただお互いに監視し合うだけ。観客たちもみんないなくなってしまう。

思うに「議員の居眠りを許さない」ことを公約に掲げる議員というのは、この監視役のようなものだ。こんな議員がますます増えていったら、日本の政治はよくなるどころか、完全に止まってしまうのは間違いない。

そうなったら、我々は不安すぎて、居眠りどころではなくなるはずだ。