苦い文学

外貨の禍い(終)

2 つあるセキュリティチェックのゲートのうち、私は外貨没収係の職員のいるところから遠い方を選んだ。だが、まずそこにどんな人が並んでいるかを見るべきだったのだ。

そこには3人の子どものいる大家族が並んでいたのだ!

もうひとつのゲートはといえば、スマートな若者や大人ばかりですいすい進んでいくが、こっちのほうは、お父さんお母さんが、列から飛び出そうとする子どもたちを引き止めるのにてんてこ舞いだ。しかも荷物がいくつもある。金属探知機に通すために荷物をトレーに乗せなくてはならないのだが、そのトレーが足りないくらい。で新たにトレーが来るまで列はストップだ。

私は例の職員をこっそり見て、動向を探る。もう高齢女性は済んだと見えて、再び旅人たちに目を光らせている。私は背を向けて気づかれないようにする。列に並んだとて安心はできない。なぜなら、以前、私はこの列にいるときに彼にとっ捕まったこともあったから。

にしてもトレーが来ない。夫婦は、ボディチェック対策に子どもたちの靴を脱がせている。私はジリジリして待っている。今にもあの塞の神が私に気がついてやってくるかもしれない。なんとかしてこの場を切り抜けたい! 

ついにトレーが来た! 大家族が次々と荷物を乗せる。荷物を乗せたトレーが金属探知機の中へと運ばれていく。私も目の前に来たトレーに自分の荷物を乗せて、家族の後を追う。ゲートを無事通過! 足早に免税店の中に駆け込んで、旅人たちの中に紛れ込んだ。

もちろん、私には外貨申告書があった。大使館の助言通りに取った一枚だ。これがあるなら、そんなにハラハラする必要もなかったのかもしれない。

だが、その申告書は、退魔のお札かなんかのように、あの職員を退散させる機能を本当に発揮してくれるだろうか? かえって「なんでそんなものを持っているのだ、アヤシイぞ」という藪蛇機能を備えている恐れだってあった。なんにせよ、使う状況に陥らなかったことを喜びたい。

私の旅は終わった。私は外貨の禍いを生き延びたのだ。

……そして、今、私はまたチュニジアにいる。外貨申告書も新たに取得した。今回の帰国時になにが起きるかは、誰にもわからない。