苦い文学

外貨の禍い(4)

それは、空港で出国のためのチェックインを済ませたのちのことだ。そのままセキュリティゲートに向かって歩き出したところ、私は空港の女性職員に呼び止められたのだった。

職員は「チュニジアの通貨を持っていないか、ドルとユーロはないか」と聞き、私を別室に連れて行った。私は椅子に座らされ、職員は再び同じことを尋ねた。私はそのときディナールもドルもユーロも持っていたが、ドルとユーロのことは言わずに、代わりにポケットから小銭入れを取り出してみせた。

「チュニジアのお金はこれだけです」

職員は、小銭入れの 20 ディナール札と小銭(だいたい千円ちょっとぐらい)を見た。そして、いかにも興味を失ったような顔つきで私に返すと、その場から放免したのだった。危機を脱したことに一安心の私であったが、その後、私は出国審査を抜けたところで、再び職員の襲撃を受けたのだった。

私はこの経験から、空港内では外貨を持っていそうな「カモ」の情報が職員間に間で共有されているのではないか、という印象を抱くようになった。

「一人旅のアジア人がそっちに行くから頼んだ、どうぞ」
「了解、どうぞ」
「没収したユーロやドルは山分け、どうぞ」

もちろんこれは私の推測にすぎない。

さて、コロナ禍が明けてから、2023 年の 8 月、2024 年の 2 月と 8 月と、私は 3 回チュニジアに行ったが、3 回とも同じ目にあった。そこで、2025 年の 2 月にチュニジアに行くにさいして、私はこう考えた。

「もうこんな不快な経験はイヤだ。空港職員の不正ならばやっつけてやりたいし、そうでなくても、うまく切り抜ける方法があるはずだ。そのためには、ことの真相をはっきりさせねばなるまい」

そこで、私は在日本チュニジア大使館に電話をかけることにした。