苦い文学

外貨の禍い(3)

これはいったいどういうことなのだろうか。法律で定められているのだろうか? 出国する外国人からわずかな外貨を奪い取るように? あまりありそうにないことだ。それとも、空港ぐるみの不正、悪徳職員の小遣い稼ぎなのだろうか。

私には後者のほうがありそうに思えた。なぜなら、もし国の法律で決められているのならば、専用のカウンターを設けて全出国者に尋問しているはずだが、私の観察によるとどうもそうではなく、あの職員はランダムに、抜打ち的に襲いかかっているようなのだ。ある人はドルを取られて、ある人はそうではない、そんなことがあろうか。

そして、もし、これが空港職人よる不正であるならば、私のような個人の旅行者は格好のカモにちがいない。つまり、これが団体ツアーであれば、ひとりだけつまみ出して尋問するなどできそうもないのだが、ひとりきりなら攫われても誰ひとり気づかない。

また、チュニスからヨーロッパに向かわず、日本などのアジアに帰国するというのも、都合がよさそうだ。というのも、そうした人はたとえドルやユーロがを没収されたとしても、自国の通貨があればなんとかなるから。

だが、そのためには、出国審査カウンターの向こうで待ち構えている例の男に、「いいカモが来るぞ」という出国者の情報が伝わっている必要がある。この点に関して、私は少し心当たりがある。