苦い文学

外貨の禍い(2)

出国審査カウンターを出たら、そのまますぐにセキュリティ・チェックに進めると思ってはいけない。そこではひとりの制服を着た男が待ち構えていて、行手に立ち塞がるのだ。

「パスポートを見せなさい……」 見せない選択肢があろうか。

黙ってパスポートを渡すと男は奪い取って、こんなふうに尋問してくる。「ドルは持っていないか、ユーロは持っていないか」 そしてその後に衝撃的な言葉が続く。

「もし持っていたら、国外に持ち出すことはまかりならぬ」

もちろん、私とて、チュニジアの通貨が国外に持ち出せないことと、外貨でも持ち出し禁止の額があるのは知っている。だが、それは数十万円の話で、私が持っているのは、ドルとユーロ、日本円合わせて 10 万円にも満たない。そんな額が外貨持ち出しの対象になるとは考えられない。だからもちろん答えは「いいえ、(そんなお金は)持っていません」だ。

すると、男は、リュックを開けという。私は中身を見せる。あるときなどは、脇にあるドアのない小部屋に連れて行かれて、荷物を調べられた。

「本当にないのか?」

「ありません」

本当はポケットの財布に数万円分入っている。そこまで調べられたらおしまいだが、いつか男が諦める瞬間が来る。それは私のリュックの中にどっさり本が入っていたり、医薬品の袋が入っていたりすると、「こいつは貧乏そうじゃわい」と思うのか、パスポートをつっかえして、私を放免してくれるのだ。