私たちは昔、「ホモ」という言葉を聞いただけで、大笑いしたものだった。この言葉と一緒に、クネクネとシナを作りでもしたら、私たちは飲んでいたホモ牛乳を盛大に吹き出したものだった。
それから数十年が経ち、世界は大いに変わった。今では「ホモ」ではもはや誰も笑わなくなってしまった。いやそれどころではない。人々はこの言葉に眉ひとつぴくりとさせない。表情筋というものがいっさいの動きを止めてしまう。笑ってもいけないし、その逆に受け取られてもいけないとなると、そうなるより仕方がないのだ。それで、誰もがこの言葉など存在しなかったような顔つきで、食事中だろうが談笑中だろうがおかまいなしにピタリと動きを止めてしまう。
そのとき、人々はいったい何を考えているのだろうか。笑い合った懐かしい過去のことだろうか、時代の無情な転変だろうか。それとも、笑い者にされたという心の傷だろうか……
なんにせよ、この言葉は、私たちから表情と身体の動きを奪い去り、とりとめもない追憶に浸らせる魔法の言葉となってしまった。
近頃では、この言葉をいきなり耳元で叫び、相手が硬直している間に、金品を奪う事件まで頻発しているとのことなので、くれぐれもご注意されたい。