苦い文学

男のハンディファン

今年の夏、ハンディファンを持って街を歩くおじさんたちが各地に出現している。去年はそんな人はひとりもいなかったのにだ。「これはハンディファン史上大きな転換期を迎えているのだ」という人もいれば、「いや、猿が木から降りたのに匹敵する大きな人類の変化だ」と主張する人もいる。それどころか「7月5日はこれだったのだ。予言は本当だった」と言い出す人もいるありさまだ。

しかしそれにつけても不思議なのは、いったいどうしておじさんたちがハンディファンを使うようになったのか、だ。その理由がまったく腑に落ちないのだ。そもそも、ハンディファンは、韓国のスターたちがメイクが落ちないように使っていたのが始まりだ。それがきっかけとなって、若い女性たちの間で流行したのだ。

いったい、これまで若い女性の流行におじさんが追随したことなどあっただろうか? いや、ないのだ。おじさんたちは若い女の子の真似など決してしない・できない生き物なのだ。その決してありえないことが、ハンディファンで起きた。そこまで地球温暖化が進行したということなのだろうか?

こうした疑問に突き動かされて、私は、ハンディファンを使うおじさんたちの心の秘密を聞き出すべく、街頭インタビュー調査を敢行した。その結果、以下のような事実が判明した。

「おじさんたちが持っているのは、ハンディファンではなかった。それは、もともとファン付き作業着のファンであったものが、作業着部分の退化により自立したものである」

つまり、地球温暖化という過酷な環境への適応の中で収斂進化が起き、ハンディファンと類似した形質を獲得するに至ったのである。進化論研究上、きわめて興味深い例だと考えられよう。