苦い文学

ファーストの先

行列に並んでいると、男が私たちの前に割り込んできた。私たちのひとりがそのことを注意すると、男は「ここは日本なのだから日本人ファーストだ。黙ってろ」とすごんだ。

「私たちも日本人ですが」とこっちも負けない。

「じゃあ、証明するものを見せろ」

「いや、なんであなたに見せなくてはならないのですか」

「ほら、これだ。だから外国人どもてのは!」

あんまり悔しかったので私たちはそれぞれ自分の証明書を取り出してみせた。すると男は見もせずにあざ笑った。「おいおい、俺は入管じゃないぜ! どうせ偽造だろ! お前らは在留カードでも握っておとなしく並んでろ!」

「じゃ、じゃ、そっちの証拠を見せろよ!」 と私たちのひとりがたまらず声を荒げた。すると男は胸のポケットからラミネートされたカードを取り出して、突き出した。日本人ファースト党の党員証だった。

私たちはもう黙ることにした。すると、男は何人か先に年配の女性が並んでいるのを見つけ、今度はそこに割り込んだ。女性の抗議の声と、男がこう怒鳴りつけるのが聞こえた。

「子どもの産めないババアは黙ってろ! この日本じゃ日本人ファーストなのは子どもを産む若い女だけだ!」

そのうち男はさらに割り込める場所を見つけて、どんどん先に行ってしまった。あんなふうにおかしくなると、と行列に並ぶ私たちは思った。地獄に落ちるのも日本人ファーストらしい。